マンダリン 第二話


● 「標準中国語」と「北京語」はどう違うの?

福建語や広東語など中国の方言、華語、マレー語、英語などが飛び交うシンガポール社会に住んでいるみなさんは、華人の友だちと付き合う時、せっかく習っている言葉を相手も話してくれたらいいなとひそかに思っていませんか。そんな時、素直に「請講華語=マンダリンを話していただきたいです」と頼めばだいたい応えてくれます。華語はつまり「標準中国語」です。「請講北京語」とは言わないのです。

確かにマンダリンは北京語(北京方言)の発音が基礎となっていますが、本当の北京語とマンダリンではかなり多くの違いが見られます。

例えば、北京語では接尾語として「r」がよく使われます。この「r」はマンダリンにはあまり見られません。中国の国語教科書でもこの「r」の発音は含まれません。具体的な例で言うと、「どこに行きますか」と聞く場合、マンダリンは「去那里?(音)チーナーリー?」ですが、北京語は「上那児?(音)シャン ナーアル?」になります。日本の標準語と江戸弁との違いに似ています。

シンガポールは北京から遠く離れているせいか、町の人々がきれいな巻き舌音の純北京語を話しているわけではありません。一人だけ北京語を話すと、かえって仲間はずれになってしまうということもよく聞きます。いわば「郷に入れば郷に従え」で、私の北京出身の友人たちでも町に出ればやはりシンガポール人が分かりやすいマンダリンを使っています。

ちなみに、マンダリンは大陸では「普通話(音)プウトンホァ」、台湾では「国語(音)グウ ユウ」、シンガポールでは「華語(音)ハウァ ユウ」と呼ばれています。

● 同形語に見られる日中間の文化の差

「愛人」と「主人」

「我是他愛人(音)ウオー シー タァー アイ レン」。中国の女性は大勢の人前で、自分が「愛人」であることを平気で、しかも堂々と言います。それを聞いた日本人は誰でも眉をひそめるでしょうが、これはとんでもない誤解です。実は中国語の「愛人」とは、結婚した相手、つまり夫、妻、連れ合い、配偶者の意味に過ぎないのです。

ちなみにこちらシンガポールではこの「愛人」はむしろ日本語の意味に近い使い方をされます。一方、私の夫のことは「我的先生(音)ウオ ダ シィエン ション」、私の妻は「我的太太(音)ウオ ダ タイタイ」と言います。

それに対して、他人に自分の夫を指して「主人」と言うのは日本ではごく自然な表現ですが、中国語の意味は「所有者、主宰者」の意味で、自分の夫を「主人」と言うと、自分が召使い、或いは雇われた人の地位にいることになってしまいます。

特にメードを雇って生活するのが普通になっているシンガポール社会では、自分の夫のことを「主人」と呼んだら、マダムかメードか、来客の頭が一瞬にこんがらかってしまいそうです。私に日本語を教わっているこちらの女子大学生たちが一番忌む言葉がこの「主人」です。

ちなみに当地では結婚しても、女性は苗字を変えませんが、人の奥さんを言う際、旦那さんの苗字を使って「XX太太」と言います。例えばMrタンの奥さんはタン太太とか、Mrリーの奥さんはリー太太とか…。

第三話は、「旧正月のあいさつ言葉」。いきなり実用会話。

中国語とマンダリン
中国は国土が960万平方キロ、日本の約26倍の広さで、ヨーロッパがすっぽり入る面積です。したがって、地方ごとに「方言」があり、その発音はまったく違います。ヨーロッパでドイツ語とイタリア語が違うように、たとえば北京の人と上海の人とでは、通訳がないと会話が成り立ちません。

そこで、コミュニケーション用の共通語が必要になります。こうして定められた言葉が「マンダリン」です。大陸では「普通語」といい、「普」遍的に「通」用するという意味です。

したがって、「マンダリン」あるいは「普通語」は、中国人および華人の共通言語で、外国人からは「標準中国語」と呼ばれています。


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