縁起言葉 第九話


1 『八』について

日本人の学生から「どうしてシンガポール人は『八』という数字が好きなの」と聞かれます。「まさか、日本人の影響を受けたのではないでしょう」と首をかしげる友人もいます。

わたしはいつも「縁起をかつぐという習慣はどの民族にもあります」と前置きをしてから、「この『八』という縁起数字の由来は日中間の事情がちょっと違います」と答えます。
 
日本では主に『八』という漢字の形が末広がりなので、だんだん繁栄・繁盛していくという吉の縁起として使われます。

一方、中国人は漢字の形ではなくて、発音がいいから使うのです。中国語の『八』の発音は(Ba−1)で、発展、発財、金持ちになることの発(Fa−1)と似ています。「我発了」といえば、わたしは一発もうかった、あるいは金持ちになったという意味です。

香港、台湾、シンガポールの華人層で流行り出し、最近中国本土にも広がったこの風習。歴史はここ数十年しかないと思います。


2 新年のお餅について

似たようなことはもうひとつあります。日本人も中国人もお正月にはよくお餅をついて食べます。

日本人はお餅の粘りと伸びという特性に縁起をかつがせて、命と子孫が長くまたは伸びるようにと願いを込めています。

お餅のことを中国語で「年 * 」(Nian−2 、Gao−1)と言います。中国人がこのネンガオを食べる時すぐ連想するのはこの と同じ発音の高で、年年高という意味になり、毎年子供の背も、家の財産もどんどん高くなるようにと祈願するのです。


3 時計を贈るとき要注意

中国人がことばの発音にどれほどこだわっているかをもう一つの例をあげて説明しましょう。

みなさんの中には中国人と友だちになり、日本の習慣にのっとって、時計をプレゼントとしてあげようかと考えていらっしゃる方はいませんか。それはぜひ慎んだほうがいいと思います。

時計を贈与することを中国語では送鐘と言い、これとまったく同じ発音のことばは送終で、臨終を見とどけるという意味になってしまうのです。

掛け時計や置時計はタブーですが、腕時計だったらあまり問題になりません。なぜならば前者は鐘で、後者は表(Biao−3)というので、終と関係がないのです。

このように日本人は主にことば(特に文字)やその事物の形に注目します。中国人は発音に敏感です。

もちろん、日本の縁起物にはこんぶ(喜ぶ)、鯛(めでたい)などもあり、忌み数字の4と9も発音に由来していますからすべてというわけではありません。


注・ローマ字綴りの後の数字は中国語の四通りの声調を表すものです。
「四声」の使い分けは以下の通りです。
第一声・高く平らにのばし、汽笛の「ポー」のように発音します。
第二声・しり上がりになるよう、「ええっ?」のように発音します。
第三声・低くおさえながら、後半をゆるやかに上げ、がっかりしたときの「あーあ」のように発音します。
第四声・上から下へ下げ、返事の「はい」のように発音します。


中国語とマンダリン
中国は国土が960万平方キロ、日本の約26倍の広さで、ヨーロッパがすっぽり入る面積です。したがって、地方ごとに「方言」があり、その発音はまったく違います。ヨーロッパでドイツ語とイタリア語が違うように、たとえば北京の人と上海の人とでは、通訳がないと会話が成り立ちません。

そこで、コミュニケーション用の共通語が必要になります。こうして定められた言葉が「マンダリン」です。大陸では「普通語」といい、「普」遍的に「通」用するという意味です。

したがって、「マンダリン」あるいは「普通語」は、中国人および華人の共通言語で、外国人からは「標準中国語」と呼ばれています。


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